広島高等裁判所 昭和61年(う)169号 判決
債権者を殺害した場合2項強盗としての強盗殺人罪が成立するためには,人を殺害して財産上不法の利益を得るという故意があることと強盗の手段である殺害行為によって債務の履行を実際上不能にするか著しく困難にし財産上不法の利益を得たということが必要であり,一般に故意があるというには犯罪事実の認識,認容があれば足り,これを意欲することを必要としないと解されるから,2項強盗としての強盗殺人罪における故意も,人を殺害して債務の支払を免れ,財産上不法の利益を得ることの認識,認容があれば足りると解するのが相当である。もっとも,1項強盗としての強盗殺人罪においては金品奪取という客観的に明白な行為から金品奪取の故意があったとの認定をすることが容易であるが,2項強盗としての強盗殺人罪においては右金品奪取に対応し得る客観的に明白な行為が伴わないため故意の認定はさほど容易ではなく(債権者を殺害しても,それが債権債務関係と全く別個の動機原因で行われる場合のあることは容易に考えられる。),殺害に至る経緯殊に被害者と犯人の債権債務関係,債務支払状況,履行期限,督促状況,犯人の経済状態,殺害現場での犯人と被害者の応答,殺害後の犯人の行動のほか,犯人の殺害動機についての供述等をあわせ考慮し慎重に故意の存在を認定すべきであるから,故意の存在が合理的な疑いをいれない程度に立証される場合は,実際上債務の支払を免れるとの認識,認容が意欲ないし目的さらには主たる動機にまで高まっていることがほとんどであると考えられ,この意味において債務の支払を免れる目的を要するとの所論も理解し得るけれども,理論上2項強盗としての強盗殺人罪の故意が一般の故意と別異に解すべき根拠はないから所論は採用できない。のみならず,本件においては前記認定のとおり本件犯行の際被告人には少なくとも被害者に警察に行かれて信用失墜を恐れこれを防ごうとの意図と併存の形で債務の支払を免れる意図ないし意欲があったことは明らかであり,原判決の判示するところも同趣旨と解されるから,所論は前提を欠き失当である。